国際航業株式会社


平成8年2月3日 

国際航業株式会社 コンサルト部・道路計画グループに午前九時から出前講座をする。
(東証一部上場)

 この企業は全国に事業所を持ち官公庁が発注する道路の設計、
計画などを主に業務をおこなっている。

 出席者は国際航業 10名(内、女性2名)、出前チーム 5名。
コーディネーターをチームの外園さんが担当し、
車いす、電動車いす、点字、アイマスクにそれぞれの障害を持った者が
担当者となって車いすの操作と介助の仕方、

視覚の障害を持った者のガイドの方法について
基本的なことを30分ほど説明する。

 その後、車いすとアイマスクで

国際航業九州事業本部のある博多区東光2丁目から博多駅までの
約600bを往復の疑似体験、
往路で車いすに乗った人は、復路はアイマスクをして歩いてもらうことにした。

 九州事業部のビルの出入口は10aの段差があり、最初の難関に
ぶち当たることになった。

 この10aの段差を下りることは初めて車いすに乗る人にとっては一人では困難。
車いすを後ろ向きにし介助者に下ろしてもらうことになる。

 交通事故、労災などで脊髄を損傷し、
車いす常用になった者はリハビリテーションの過程でキャスター上げの
訓練を受ける。

この程度の段差はクリアーできるが、
手が不自由、バランスがとれない重度者は介助が必要であり、
不必要な段差は無い方がよい。

 玄関を出て、ビル敷地から歩道へ出ることに、
今度は10a幅ほどの排水溝があり、蓋はなくここもキャスター
が溝に落ちる危険があり、介助が必要となった。
 歩道に出て国道三号線を横断し博多駅の方へ向かう。

危険箇所

 車道と歩道の間にある排水溝のグレーチィング蓋
(道路上の水はけを良くするための金属製の編目状になった蓋)
のスリットが大きくキャスターがそれにはまり込み転倒する危険があった。



徐々に上のような目の細かなグレーチィングに変わりつつある


体験組にチェックしてもらい道路のいたる所にこのような
個所があることを認識していただく。

 三笠川に架かる東光橋の上り勾配でも苦労したようだ。
堅粕小学校を右手にして坂を下るのであるが歩道は車道の方へ
斜めに横断勾配がつけてある。

これが歩道によってさまざまな勾配になっており車いす歩行を
困難にしている。

車道を左側にして進めば
車いすは左へ左へと車道へ向かい左手でハンドリムを強くすばやく
回し進路を変えなければ車道へ落ちる。
右側にすればやはり右へ右へと行く。 
幅員の狭い歩道ほどこの横断勾配が大きい。
 
博多東交差点で歩道と車道の段差が障害となる。
車道は中央部が盛り上がり歩道側へ下り勾配がつけてある。
また歩道の車道側への下り勾配と段差が合わさり簡単には
通過することはできない。



力が必要であり、介助が必要なところもある。なんとか通過する。

 色付きのブロック歩道を走行する。
ほとんどの歩道に使用されているインターロッキング(ブロック)は
見た目には良いように思われるが、車いすの走行には向いていない。

 隙間(目地)が抵抗となり走行に力が倍必要となり、
このわずかな隙間で前輪に振動が発生して車体を伝い身体に響く。
この「ゴトゴト、ゴトゴト」と小刻みな振動が膀胱を刺激して、
括約筋が収縮作用を起こし失禁をしやすくなったと訴える人さえいる。



 車で高速道などを走行時に道路の継目、
あるいはスリップ防止の目地などによって起こる振動、
アスファルト舗装のしてない凸凹道での車が受ける振動と同じである。
 

車がアスファルト舗装の道路が走りやすいように

車いすもアスファルト舗装の歩道が走りやすいのである。


 博多駅も間近になり、歩道と車道の区別の無い道路に出る。
いたるところに行く手をふさぐように違法駐車、駐輪の多いことに
体験者はびっくり。

障害の無い身ではあまり不便に感じないが車いす、アイマスクをして
初めて気付くことである。

このような道路は危険ではあるが道路の中央部を通るしかない。

 普段、私の足(車いす)で7、8分のところを学習しながら
20分ほどかけて博多駅に着いた。

復路も同じように時間をかけた。

 この企業が出前を依頼した理由は道路の設計や計画に携わる者が

「バリアフリー」


バリアフリーとは
(もともとは建築用語で、建物内の段差解消等物理的障害の
除去という意味が強いが、障害のある人が社会生活をしていく上で
障壁(バリア)となるものを除去する
という意味で使われている)




といった認識が薄いことは事実であり、社員の中にも
「福祉のまちづくり」に携わったことのない者が多くいる。
そこで体験を通して認識が深まることを狙った。

 疑似体験をしたことによって、逆にこれがよい機会になって
意見の交換ができるようになった。

頭では分かったつもりでも実際に体験をしてみると
理解していない点が多くあった。

より以上の理解、認識ができ、バリアフリー問題を真剣に
自分のものとして考えることができた。

これを「住みよいまちづくり」に活かしたい。

という感想をいただき出前福祉講座を終えた。

 明日の朝、腕の筋肉、肩の筋肉が張って大変だろうと思いながら帰路についた。

写真左端が私(車いすのおっさん)です



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